2264. お金をドブに捨てる方法 【6】
お金をドブに捨てる方法 【6】
韓国の料理店で、無料の付け合せが、大量に出されるのは、「こんなにあなたがたを歓迎していますよ」という意味だそうだ。だから、出されたものを完食しないで少しだけ残すのが礼儀らしい。「食べきれないくらい提供した」という自己満足感を相手に与えるためである。もしも、食べきってしまうと、「歓迎が足りない」と判断されるらしい。
へー。
【6】
焼肉とアイスという王道を楽しんだ後、仮眠して、早朝3時に起きた。
先輩方に起こしてもらうのは申し訳ないので、目覚まし時計をかけておいた。
(何が楽しくて、海外旅行で朝3時に起きなきゃいけないのか。いや、楽しいよ。)
地下のカジノへ下りて行った。
深夜とは思えないくらいに、カジノは熱気であふれいていたが、まだ3人とも来ていなかった。
僕はブラックジャックを素通りして、バカラテーブルへ向かった。
いつものように、しばらく人間観察を続けた。
バカラには、1000円、3000円、5000円、10000円、そしてそれ以上の金額の台がある。
5000円以上の台になると、「プレイヤー」と「バカラ」に配られたカードを、客自身がめくる。複数の客が賭けた場合は、もっとも高額の賭け金を置いた客がカードをめくる。
これはどこのカジノでも行われている慣例で、客に対するサービスのひとつだ。
カードをめくる客は、もっとも高額を賭けているという優越感に浸り、そのカードをめくる様子を周辺の客から、うらやましがられながら見つめられる。
カードのめくり方にも慣習がある。
裏返しになったトランプの横辺(短い辺)を3ミリほど、トランプを折り曲げるようにして一部分だけめくる。トランプは紙でできているので簡単に折り曲げられる。
横辺が見えると、絵札(10)か、2列札(4以上)か、1列札(A、2、3)かが分かる。
次に縦辺(長い辺)を同様に、折り曲げてめくる。これで数字が判明する。
このほかにも、トランプの右隅にある数値をジワジワと折り曲げながら見る方法もある。なかには、トランプなのに盲牌している客もいる。
いずれにしろ、盛り上げるためのエンターテイメントだ。
要するにメンドクサイ。
須藤さんは、自分がめくる担当になると、喜んで、子供のような目つきでトランプを折り曲げているが、どうやって折り曲げようが、結果は変わらない。
昨日、3万を賭けたとき、僕が「折り曲げ担当」になったが、折り曲げもせず、ただパラッと裏返した。大事なのは結果だから。
ただし、これには周囲の視線が痛い。しかし、その視線の意味は、
「せっかく楽しんでいるのに、つまらない奴」 という意味ではなく、
「折り曲げ方も知らない初心者」 という意味である。
「初心者」と思われた時点で、ギャンブルは負けが確定する。
一方、3000円以下の台は、折り曲げる必要がない。
いちいち、トランプを折り曲げていたら、時間もムダだし、トランプそのものももったいない。折り曲げられたトランプは、そのままゴミ箱へ捨てられる。
1000円と3000円の台では、経費節約のため、プラスチックのトランプを使用して、全てディーラーがカードを裏返す。客は折り曲げる必要がない。
僕は、1000円と3000円の台の間を往復しながら、様子をうかがっていた。
………
1台のテーブルには、7人の客が座れる。
ただし、7席全部が埋まっていたとしても、毎回賭けているのは2人か3人だ。残りは、様子を見ながら、賭けたいときだけ賭けている。座ったまま全く賭けない客もいる。そうすると、テーブルの上が空きスペースだらけになり、立ち見の客が横から手を伸ばしてチップを置いていくこともできる。もちろん、当たればちゃんと配当をもらえる。
実際、この「立ち見」の方法がもっとも効率がよい。
テーブルを全体的に鳥瞰しながら、運の流れを観察することができる。
しかし、おそらくカジノにとってはルール違反だ。「座って賭ける」というルールがあるらしい。ただ、カジノは、「客」に対してはほとんど文句を言わない。
ならば、ルールに則って着席して、賭けたいときだけ賭ければいい。
しかし、まわりに立ち見客が10人もいるのに、座っていながら何もしないというのは…
なんていう考え方は、礼儀正しい日本人だけだ。
命以上にお金を大事にする人種は、他人のことなんか気にしない。一度座ったら、絶対に立ち上がらず、基本的には見ているだけで、たまに賭けたいときだけ賭ける。
肌の黒いアジア人に多い。
一方、毎回毎回賭け続けているのは、なぜか有り余ったお金を持っている、お姉ちゃん、おばさん、おじいちゃんだ。
ほぼ毎回、同じ金額を、どっちにしようかなぁ、と苦しみ迷いながら、賭けている。運がよければチップが増えるが、結局のところ、だんだんと減っていくことが多い。(なぜだろう?確率は2分の1なのに。)
彼らは、たいがいが中国人だ。
バカラには、他に「ペア」と「ジャックポット」という賭け方がある。
「ペア」は、配られた2枚が同じ数字の場合に的中。バカラそのものの勝敗には関係ない。しかし、ペアになる確率は13分の1なのに、配当は12倍しかもらえない。小学生でもわかる理不尽さなのに、結構たくさんのチップが賭けられている。
『ペアばっかり出ることもある。そこを狙って賭ければプラスになる。』と祖父江さん。
いや、先生、それは体育会系のご理解というもので、。
「ジャックポット」は、プレイヤーとバンカーに配られた4枚が、4枚とも「8」だった場合に当たりになる。3000倍の配当だ。
『1000円賭けただけでも、3百万だよ!』
と須藤さんが楽しそうに説明してくれるが、13の3乗は、28000を越す。
もしもトランプが1組しか使われていなかったら、さらに天文学的な数字だ。
しかし、ペアやジャックポットを無視していても、続けていれば、ほぼ必ず、カジノが勝つ。カジノ側が儲かる仕組みはこれだけではないらしい。
では、あえて続けてみよう。本当かどうか、試してみよう。
そう思って、1000円の台に座った。
満員で、僕を含めて7人が座っている。
………
同じテーブルに、マスクをした中国人の姉ちゃんが座っている。
出目を基本に、毎回、1000円から1万のチップを張っている。もう15分以上も賭けつづけている。チップをやや増やしている感じ。
その後ろに、立ち見の中国人兄ちゃんがいる。坊主頭の若造だが、あちこちの台を渡り歩きながら、気に入ったところに5000前後のチップを賭けている。かなり勝っている。
本来なら、この2人が判断基準になる。
しかし、今回は、僕も着席してしまった都合上、彼らの張りを待たずに、チップを置かなければならない。
それが礼儀正しい日本人としての行動だから。言い換えれば、小心者の日本人だからだ。
僕は「プレイヤー」に1000を置いた。
姉ちゃんは、バンカーに2000置いた。坊主頭もバンカーに5000置いた。
ディーラーがカードを開いた。「バンカー」
もう一度、僕は「プレイヤー」に1000を置いた。
とりあえず、プレイヤーに置き続けようと考えていた。
再び、姉ちゃんは「バンカー」に2000、坊主頭も「バンカー」に5000。
さすが、こいつら、知ってる。
ディーラーが開いた。「バンカー」
さらに、また僕は「プレイヤー」に1000。
決して「やけ」になっている訳ではない。自分の流れを判断するためだ。張り分けしていたら、流れが判断できない。
そもそも「やけ」になったら、ギャンブルは負け。帰って寝たほうがいい。
姉ちゃんは「見」。
見(けん)。どちらにも張らずに、見物ってことだ。そろそろプレイヤーに張りたいけど、連続でハズしている俺に乗ることになるのが、好ましくないらしい。
坊主頭は、性懲りもなく「バンカー」に5000。
結果は、「バンカー」。坊主頭は、チップが持ちきれない。
さて、次。
僕はだまって、「プレイヤー」に3000。
1000ではなく、3000を置いた。そろそろ、風の変わり目だ。
姉ちゃんも「プレイヤー」に3000。
俺に乗ってきたのだろうか。
坊主頭は見。というか、別の卓へ張るのが忙しいらしい。
結果は、「プレイヤー」。
僕の手元に3枚のチップが戻ってきた。
ハズレ、ハズレ、ハズレ、あたり
4回中、1回しか当たらなかったが、チップはプラスマイナスゼロ。
何回ハズれようが、当たりのときに高額を賭けておけばいい。これがバカラだ。
僕は、ついているような気がした。
次は「バンカー」に張った。
「バンカー」が3回連続で出て、次にお茶をにごすように「プレイヤー」。すると次はまた「バンカー」に戻る、そう考えていた。
しかし、この時点で、僕は大事なことを見失っていた。
「バカラに出目は関係ない。判断材料は他の客だけだ。」
着席して、毎回賭けなければいけないという義務感を感じてしまった時点で、他の客を見ようとする気持ちがなくなってしまった。
結果は「プレイヤー」。
次から、またプレイヤーに張り続けたが、バンカーが連続した。
その後、20回くらいの間に、浮き沈みを繰り返し、5000ほどのチップを失った。
最初と同じように3回連続プレイヤーに張ったのに、3回連続バンカーが出るなんてことがたびたびあった。さすがに、これはついてない。
ついには、姉ちゃんと坊主頭が、俺の逆を張るようになった。
残念だが、負けを悟った。
ディーラーではなく、姉ちゃんに一礼して、席を立った。
マイナスは、たった5000ほどだが、勝負に負けた感が強かった。
「やり続ければ負ける」
そう確認した。
座っていたのは30分ほどだったが、ドッと疲れを感じた。
………
時刻は朝6時になっていた。
ブラックジャックのほうを眺めれば、祖父江さんと滝口さんが楽しそうに遊んでいる。
滝口さんの前にはチップの山ができている。
随分、調子がいいらしい。
僕はブラックジャックにはあまり興味がないので、座らずに、お2人の後ろで立ち見をしていた。
6時半。
『そろそろ朝ご飯にしようか』
と、3人でカジノ内のレストランに移動した。
たいしたものはないのだが、カジノでは基本的にフリーフードだ。
ところが、
「ポイントが足りません」
と、受付の韓国人お姉さまに断られてしまった。
カジノはIDカードで管理されている。ギャンブルコーナーに着席すると、ディーラーがカードを操作し、客が何時間遊んでいるかを記録する。もちろん、カジノの自衛目的のシステムだ。
しかし、この方法で、客のカジノへの貢献度が判断され、ギャンブルを一定時間していないと、朝ご飯が食べられないようになっている。
受付のお姉さんによると、僕たちは、遊んだ時間が足りないということだ。
そりゃ、そうだ。
IDカードなんて面倒だから、ほとんどの客がカードを提示しない。
「プレイ時間」なんていう余計なことを考えていたら、判断が鈍る。
しかし、理由はどうあれ、韓国人のお姉さまに、冷たく断られてしまった。
祖父江さんは、怒り心頭だ。
『前はそんなシステムなかったぞ。こっちは客だぞ、おい』
あまりのお怒り模様に、上役のおば様が来て、
『では、社長さんは特別に、許可しますよ』
「社長さん」という単語は、「殿方」や「gentleman」という意味と考えているらしい。勉強熱心であることは褒めてあげたい。
『いいよ、もう。部屋に帰って食べよう!』
『 中国人客が、ギャンブルもしないで、飲み食いばかりしてるから、変な決まりができちゃったんだよ。』
と、また同じ説明をしてくれた。ブラックジャックそのもの、カジノそのものは大好きな祖父江さんの矛先は、つねに中国人に向いている。
カジノの横にあるコンビニで、カップラーメンなどを買い、各自の部屋へ戻った。
実は、僕も祖父江さんも、韓国のカップ麺が大好きなので、それほど怒っているわけでもない。
ホテル内には、通常の家族連れが利用するように豪華な朝食ビュッフェもある。しかし、一人5000円もして、徒歩3分の別棟にある。当然のように安いカップ麺を選ぶあたりが、祖父江さんは可愛いギャンブラーだ。
★★★
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by akogarehotel | 2019-09-29 13:10 | あちこち旅行記 | Comments(0)